ハンカ湖自然保護区(ツルネットワーク・ガンカモネットワーク)

サイト名 ハンカ湖自然保護区(Lake Khanka Nature Reserve)
国名 ロシア
行政区 沿海州
中心の緯度経度 北緯44度53分、東経132度26分
連絡先 10 Ershov Street Spassk-Dalniy Primorsky Krai 692210 Russia
ネットワーク登録日 ツルネットワーク:1997.3.7
ガンカモネットワーク:1999.5.14
面積 136,000ha

概要

広大な淡水湖や湿地帯があり、アシなどの水生植物が生育しています。

ネットワークサイト指定のための基準となる種
ツル類

55羽のタンチョウと10羽のマナヅルの繁殖地であり、約100羽のナベヅル、タンチョウ、マナヅルが中継地として飛来しています。

ガンカモ類

ハンカ湖には多種のガンカモ類が繁殖し、また渡りの季節には2万羽をはるかに越えるガンカモ類が渡来します。その数は、カモ類 30万-35万羽(主に、オナガガモ、ヒドリガモ、ヨシガモ、コガモ)、ガン類 10万-13万羽(主にヒシクイやマガン)、ハクチョウ類 3000-5000羽(主にオオハクチョウ)にのぼります。

基準となる種以外の鳥類相

この地域には多くの渡り性水鳥が集まります。約35万羽のカモ(主にオナガガモ、ヒドリガモ、ヨシガモ、コガモなど)、約13万羽のガン(マガン、ヒシクイなど)、そして約5000羽のハクチョウ(主にオオハクチョウ)等が渡りの時期ハンカに飛来しています。

プリモルスキー地域の環境保護議会は、ガンカモ類の渡り鳥は200万羽余り、サギ(アオサギとムラサキサギ)の数は5万つがいと推定しています。

世界的な絶滅危惧種であるカラフトアオアシシギ、トモエガモ、アカハジロ、カリガネ、そしてサカツラガン等も保護区内で確認されてはいるが、その数は多くはありません。

保護地域には15つがいのコウノトリが生息しています。ハンカにはかつてトキが繁殖に訪れていましたが、過去50年間飛来は記録されていません。

繁殖種であるノガンも同じく近年飛来が途絶えています。

その他の特徴的な動植物相

この湖にはチョウザメの一種 Great Siberian Sturgeon や Amurian Sturgeon といった淡水魚が豊富に生息しています。ヒョウの亜種であるアムールヒョウは深刻な絶滅危惧種で、この地域にはまだ生息していると考えられています。

保全状況

国立自然保護区であり、ラムサール条約登録地であるハンカ湖(1975年登録)の一部となっています。

脅威

狩猟と農地(水田)の拡大が脅威として考えられ、中でも問題なのが水田からの農薬汚染であり、もう一つは人間と家畜が与える鳥類の生活環境の撹乱が挙げられます。特に乾燥した年は、湿地に人や家畜が入りやすくなり、この被害はより深刻となります。

その他

中国の興凱湖(シンカイフ)自然保護区とともに国際自然保護区を形成しています。

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湿地帯保護へ貴重なデータ 各国の研究者も注目

「こんなコースを飛んでいるのですか。もっと詳しく知りたいですね。早速現地調査に行ってきます」

日本野鳥の会研究センターのマナヅルデータ

1992年3月中旬、東京都渋谷区の日本野鳥の会研究センターを訪れた韓国鳥類学会会長の元炳ゴ(ウォン・ビョンオウ)・慶煕(キョンヒ)大学教授は、地図を前にしきりにうなずいた。地図には1992年3月7日に成鳥1羽が釜山近郊に着いたことなど、4羽のマナヅルの移動状況が克明に書き込まれている。開発が進む河口や湿地帯など渡りの場所を守るうえで貴重なデータだ。

NTT開発の超小型送信機

今回の調査でNTTが開発した超小型送信機(45-55グラム)を背負わせたのは、マナヅル6羽とナベヅル4羽。そのうち追跡に成功したのはマナヅル4羽とナベヅル2羽。

未開発地帯で繁殖
ハンカ湖に立ち寄り、中国の三江平原へ

1992年2月の下旬から3月初旬にかけて出水をたったマナヅル4羽は、南北朝鮮の軍事境界線に沿う非武装地帯にしばらくとどまった後、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の東海岸沿いの水田や河口の湿地などで羽を休めながら北上した。中ロ国境のハンカ湖に立ち寄った後、最終的に落ち着いたのは中国黒竜江省の大湿地帯の三江平原。1992年3月23日から1992年4月7日にかけてのことだった。

中国黒竜江省の湿地帯

三江平原に詳しい専修大学北海道短期大学造園林学科の赤沢伝教授によると、中国黒竜江省の湿地帯はまだほとんど開発されていないという。だからこそツルが安心して繁殖できるのだろう。

三江平原からロシアへ

一方1992年3月末に出水を立ったナベヅル2羽は、朝鮮半島の中央部と西海岸寄りを一気に北上して1992年4月4日から10日にかけてやはり三江平原に達し、その後ロシアに入った。

ハイテク技術を駆使した調査
出水とヒンガンスキー

調査の目的は、これまで例えば出水とヒンガンスキー間など数か所の点と点でしかつかめなかったツルの渡りの全ルートの把握である。ハイテク技術を駆使した今回の調査は、それがどの種のどの個体がどこの湿地帯で何日とどまったか、を明らかにした。

北朝鮮のツルの調査を行っている朝鮮大学校師範教育学部の鄭鐘烈(チョン・ジョンヨル)教授が言う。

朝鮮半島での中継地の保護活動へ

「保護地域に指定されていたり、これから保護したい重要湿地のほとんどをツルが利用していることも確認できた。この資料を使って朝鮮半島で中継地の保護ができるようになれば、出水平野に集中することで心配されるツルの大量死や、農作物への被害の解消にも役立つはずです」

地球観測衛星のランドサット

日本野鳥の会研究センターの樋口広芳所長も「越冬地の出水から繁殖地まで中継地も含めて全行程を細かく追跡できたことは重要です。今後地球観測衛星のランドサットと現地調査で渡りのコースの重要な湿地帯を観測して、植生や開発の状況、湿地帯の変化などを調べ、どんな保護策をとればいいのかを具体的にまとめたい」と成功を喜ぶ。

故障しない送信機

しかし、すべてがうまくいったわけではない。送信機装着のために捕獲したツルが一時飛べなくなったり、2羽の送信機のひもや送信機そのものがたれさがるなどの事態も起きた。このためより安全で、しかも確実に装着できる方法と、故障しない送信機の開発などの改善策を検討している。

湿原保護の国際会議「ラムサール条約締約国会議」

調査は1993年秋まで続けられる。1993年6月に北海道釧路市で開かれる湿原を保護するための国際会議「ラムサール条約締約国会議」などで、成果を発表していくが、今回の調査が湿原と野生生物の保護のために貴重な資料となることは間違いない。

国際ツル財団(米ウィスコンシン州)

国際的な反響も大きい。国際ツル財団(米ウィスコンシン州)理事長のジョージ・アーチボルト博士もこうエールを送っている。

1992年7月にロシアで開催

「ツルがどこにとどまって渡りをするかを調べる試みは、非常に重要です。その地が工業や農業で破壊されたら、ツルの行き場がなくなってしまうでしょう。私は1992年7月にロシアで開かれるツルの研究会で、米国と日本の研究者間で情報交換をしたいと考えています。きっと最善の調査方法を探る協力ができるはずです」

「衛星調査」 他の野鳥にも成果
最初はオオハクチョウとコブハクチョウ

野鳥に送信機をつけて衛星で追う渡りのルート調査が始まったのは、1987年から。英・アバディーン大の研究者がオオハクチョウとコブハクチョウの調査に使ったのが最初だ。以来米国、ドイツ、フランスなどでハクトウワシ、オオフルマカモメ、ナキハクチョウなどを対象に続けられてきた。日本野鳥の会、山階鳥類研究所などが1990年4月に北海道のクッチャロ湖で送信機を付けたコハクチョウを北極圏まで追跡したのも成果の1つ。

インド洋のクローゼット諸島に住むワタリアホウドリ

フランスの研究者が1989年に行ったワタリアホウドリの採食区域の調査もみごとに成功した例だ。インド洋の仏領クローゼット諸島に住むワタリアホウドリは魚やイカを食べているが、追跡の結果、抱卵期間の合間を縫って出掛ける1回の“採食旅行”のために1万5000キロも飛ぶことがわかった。

密猟防止に

日本での成果を知ったインド・ボンベイの自然史協会から日本野鳥の会研究センターにさっそく「ソデグロヅルの渡りの経路をつかんで、密猟防止に生かせないか」という問い合わせも来ているという。

足輪調査でも確認
出水平野と山口県八代盆地

日本のツルの定期的な飛来地は出水平野と山口県八代盆地の2か所。ナベヅルとマナヅルがほとんどで、彼らの故郷は三江平原も含むアムール川流域が中心になっていることが、足輪による標識調査で確認されている。

マナヅルの繁殖地

山階鳥類研究所の尾崎清明研究員によると、日本と行き来のあるマナヅルの繁殖地はハンカ湖周辺、アムール川中流域のヒンガンスキー自然保護区周辺、そして黒竜江省のザーロンの3か所。またナベヅルはロシアのビキン川周辺とバイカル湖に近いダウルスキーから来ている。

越冬地から繁殖地までの全ルート解明が

鹿児島県出水平野から北へ帰るツルの渡りルート。マナヅルは、北朝鮮の東海岸沿いに北上し、ハンカ湖を通って三江平原に落ち着いた。ナベヅルはアムール川を越えてロシアに入った。人工衛星による追跡調査で、初めて越冬地から繁殖地までの全ルートが詳細にわかった。

ビキン、ヒンガンスキー、ザーロン

ビキン、ヒンガンスキー、ザーロンも広大な湿原があり、日本とツルの行き来が確認されている。(宮畑晋吾、naoyakiyohar-5)



日本企業協力で実現のロシア自然保護区 期待大きいエコ・ツアー

1994年4月16日、読売新聞

ロシア初の民間自然保護区

ロシア初の民間自然保護区が日本企業の資金提供で実現、管理施設も、1994年の夏、着工することになった。

野生生物の観察・撮影 ツル聖域保護へ自立

ロシア自然保護区は、アムール州タンボフカ行政区のムラビヨフカに設けられた。ロシアの自然保護団体が、1993年6月、乱開発の恐れがあったアムール川沿いの国有地約5200ヘクタールを、50年間の契約で借り上げた。賃貸料や施設費など1800万円は、日本野鳥の会の仲介で東京のアパレル企業が提供した。

鹿児島県出水平野に飛来
衛星追跡調査で明らかに

広大な湿地で今、マナヅルとタンチョウ各5つがいと、コウノトリ2つがいが繁殖している。そのマナヅルは、鹿児島県出水平野に飛来することが、野鳥の会と読売新聞社による衛星追跡調査(NEC協賛)で明らかになっている。

自然保護区の管理施設「ネーチャー・センター」

自然保護区の管理施設「ネーチャー・センター」の建設計画も、1994年4月来日したアムール州、タンボフカ行政区幹部と野鳥の会との話し合いで具体化してきた。ネーチャー・センターは延べ約500平方メートルの木造2階建てで、監視員(レンジャー)が生活するほか、訪れる人が学習する会議室や展示室などを備える。1994年夏に着工、1994年内に完成する予定だ。

レンジャーの人件費

問題はその後の運営だ。「今のロシアでは、土地をほうっておいたら、いつの間にか農地に変わっていた、なんてことになりかねない」(野鳥の会)。最低、レンジャーの人件費だけは、確保しなければならない。

自然保護区での狩猟ツアー

実際、経済混乱でレンジャーに給料も支給されなくなってしまった、ある国立自然保護区では、生計の手段として、こともあろうに自然保護区での狩猟ツアーが企画され、海外から客を募集している例もあるという。

漢方薬の材料として中国へ密輸
トラやクマ、ジャコウジカが違法に捕獲

アムール州幹部などと来日したモスクワ大のセルゲイ・スミレンスキー博士によると、ロシア東部でトラやクマ、ジャコウジカなどが違法に捕獲され、漢方薬の材料として中国へ密輸されている例もある。「十分なレンジャーがいれば防げるのに……」と、博士は唇をかむ。

環境調和型の旅行 エコ・ツアー

年間数10万円ほどでレンジャー2人くらいを雇える。しかし、「ずっと援助でまかなうのでなく、自立してもらうことが大事」(野鳥の会の市田則孝常務理事)。そこで、エコ・ツアーに期待がかかる。専門家の案内で野生生物の観察や写真撮影などをする「環境調和型の旅行」だ。

ロシアのハバロフスク

1994年夏には早速、米国の子供と教師がエコ・ツアー第1弾として訪れる計画があり、野鳥の会も「会員らのツアーを企画したい」と意欲的。海外からエコ・ツアー客が来ることは「地元の人に自然保護の大切さを分かってもらうチャンスにもなる」とスミレンスキー博士は期待する。ロシアのハバロフスクではすでにエコ・ツアーが軌道に乗り、企画する代理店も数社ある。ムラビヨフカでも不可能ではなさそうだが、交通手段の確保や事故防止、ツアーによる環境への影響など、課題は多い。長期的には周辺の農業に技術援助を行い、潤ったアムール州の財政から自然保護区を支援する構想もある。

渡りの中継地の重要性

これまでの衛星追跡調査で、ムラビヨフカなどの繁殖地だけでなく、ハンカ湖(中国、ロシア)や三江平原(中国)など渡りの中継地の重要性も明らかになっている。湿地は「むだな土地」として開発されやすい運命にあり、ハンカ湖では中ロ双方から水田や畑としての整備が進行中。一刻も早い保全策が必要だ。

ムラビヨフカ自然保護区

そうした中、ムラビヨフカ自然保護区のスタートは、経済混乱に見舞われているロシアの自然を、国際協力で守るモデルケースとして世界から注目されている。自然の利用と保護がバランスよく進められるよう、関係者の知恵に期待したい。