雑木林や田…小動物が生息 里山の自然守ろう 日本野鳥の会が調査や募金活動(1996年11月9日、読売新聞)

里山の保全のための長期計画をスタート

古くから日本人の暮らしと密接なつながりがあった里山が、生活の変化、都市化などのために急速に姿を消している。鳥や小動物など多様な生き物が生息する貴重な環境にもかかわらず、あまりにも身近な存在だったために、保全への関心が盛り上がっていない。このため、日本野鳥の会では、環境NGO(民間活動団体)に資金援助を行うなど、1996年度から里山の保全のための長期計画をスタートさせた。

里山とは
どこにでもあった典型的な日本の風景

里山は、奥山と人里の中間的な存在で、雑木林の落ち葉を肥料に使ったり、木々を薪や炭に利用したり、生活と深いかかわりがあった。雑木林のすそには田んぼが広がり、小川が流れ、どこにでもあった典型的な日本の風景だった。

人間の力と自然の力の微妙なバランスで成り立っている貴重な環境

原生の自然と違って、人の手が加わっているためにその価値が低く見られがちだが、農水省農業環境技術研究所の上席研究官守山弘さんは「人間の力と自然の力の微妙なバランスで成り立っている貴重な環境だ」と強調する。

多用な生き物が生息できる環境

雑木林や田んぼが広がる里山は、野鳥の大切な繁殖地となっているだけでなく、キツネやタヌキなどの小動物や昆虫、さらに様々な草木など多様な生き物が生息できる環境だという。また、植物のカタクリやギフチョウ、ミドリシジミなど氷河期の生物相が守られてきたのは、「里山の雑木林という調和のとれた環境のおかげ」と守山さん。

林が放置されると、生き物の種類も単純に

林が放置され、木々が生い茂って、暗い林になると、ギフチョウは生息できず、林床の草花も育たなくなり、生き物の種類も非常に単純になるそうだ。

危機感を募らせる野鳥の会保護・調査センター
急速に失われている里山の貴重な環境

しかし、1960年代に入り、都市ガスやプロパンガス、電気が普及して薪や炭を利用しなくなると、雑木林が放置されて環境のバランスが崩れ始めた。また、開発が進み、「里山の貴重な環境が急速に失われている」と野鳥の会保護・調査センターの古南幸弘さんは危機感を募らせる。

野鳥の会が里山を守る長期計画に取り組む
一般の関心は低く

しかも、昔はどこにでもある普通の自然だったために、保全への一般の関心は低く、今を逃しては貴重な環境が滅びてしまう、と野鳥の会が里山の自然を守るための長期計画に取り組むことになった。

野鳥の会の研究センターが千葉市郊外で保全のための基礎調査

1996年度は手始めに野鳥の会の研究センターが千葉市郊外で保全のための基礎調査を進めているほか、日本野鳥の会の会員が参加している全国の里山保全活動グループの調査も行った。

「甦(よみがえ)れ!里山」のキャッチフレーズ
全国一斉にバードウオッチングをしながら募金活動を展開

そして、1997年5月には「甦(よみがえ)れ!里山」のキャッチフレーズで、全国一斉にバードウオッチングをしながら募金活動を展開、集まったお金を各地で里山保全のために活動している環境NGOに助成することになった。

1999年度まで里山保全のための事業を継続

また、1999年度までに各地のグループへの支援やネットワーク作りなど里山保全のための事業を継続して行う。

野鳥の会保護・調査センターの古南さん

古南さんは「このような取り組みがきっかけで里山への関心が高まれば」と話している。

東京・日野に自然保護拠点 日本野鳥の会が国際センター建設 研究や人材育成(1997年3月13日、読売新聞)

鳥と緑の国際センター

アジア地域の自然保護センターを目指す

日野市南平に「日本野鳥の会」(黒田長久会長)が建設を進めてきた「鳥と緑の国際センター」(愛称=WING)が、1997年3月15日に完成する。自然保護に関する情報データベースを整備するほか、アジアから研修生を招き本格的に人材育成にも乗り出すなど、アジア地域の自然保護センターを目指している。

愛称はWING
野鳥保護をテーマにしたシンクタンク

WINGは、日本野鳥の会が1987年頃から温めてきた野鳥保護をテーマにしたシンクタンク。日野市が1995年12月、日本野鳥の会に日野市有地約6千6百平方メートルを30年間無償貸与することを決め、建設が具体化した。

渋谷区にある日本野鳥の会の国際センターと研究センターが移転

木造・一部鉄筋2階建て、延べ675平方メートルで、総工費は約2億2千万円。1997年4月から、渋谷区南平台にある日本野鳥の会の国際センターと研究センターがここに移転する。

国際センターと研究センターは日本野鳥の会の両輪
鳥類の生態研究を担当する研究センター

国際センターと研究センターは、日本野鳥の会の活動のいわば車の両輪で、研究センターが、白鳥やツルなど渡り鳥のルートや希少鳥類の生態の研究を担当。

自然保護政策の提言や活動の計画立案を担当する国際センター

国際センターは、そのデータをもとに自然保護政策の提言、海外の団体と共同で行う活動の計画立案などを行っている。

これまでは事務所が狭く、活動が制約

しかし、これまでは事務所が狭く、研修会を開く場所や容量の大きいコンピューターを設置する場所にも困っていた。そのため、教育や情報発信などでは活動が制約されていた。

自然保護に関する情報データベースの整備を開始
アジアを対象にした人材育成もスタート

今回、新センターへの移転を機に、自然保護に関する情報をインターネットで検索できるデータベースの整備を始める。さらに、研修室もできることから、アジアの人を対象にした人材育成もスタートさせる。

鳥類に関する書籍や学術論文、ビデオなど約1万点を常備する資料室
雨水を屋根から貯水槽に集めて利用するシステムも

併設される資料室には、鳥類に関する書籍や学術論文、ビデオなど約1万点を常備。このほか、植栽を利用した自然の復元力の実験も行われ、雨水を屋根から貯水槽に集めて利用するシステムも設置した。

研修施設の拡充や展示スペースの設置を盛り込んだ第二期工事も計画

また、日本野鳥の会では2つのセンターに続いて、研修施設の拡充や展示スペースの設置を盛り込んだ第二期工事も計画。「自然保護活動に取り組むNGOのアジアのセンターにしたい」と意気込んでいる。

300種をカラーで紹介 日本野鳥の会が携帯用野鳥図鑑刊行(1998年3月27日、朝日新聞)

鳥の種類を調べるための図鑑

新書本サイズで持ち歩きに便利

山歩きやバードウオッチングで見つけた鳥の種類を調べるための図鑑「新・山野の鳥」と「新・水辺の鳥」が日本野鳥の会から発行された。日ごろ目にすることが多い鳥を中心に、合わせて約300種をカラーのイラストで紹介。携帯しやすいよう、大きさは新書本と同じになっている。

野鳥の知識が無くてもすぐに探せる工夫
住む場所や行動による項目分けでわかりやすく

多くの鳥類図鑑はタカ目(もく)、キジ目など、生物学的な分類にしたがって項目が並んでいるため、ある程度の知識がないと、目にした鳥がどの種類かを探すのに時間がかかる。このため「山野の鳥」では身近な所や森林、高山など住む場所によって、「水辺の鳥」では泳いでいる、歩いているなどの行動によって項目を分けた。

問い合わせは日本野鳥の会企画事業センターへ
カラー64ページで、価格は1冊税込み550円

鳥についての解説は日本野鳥の会ネーチャースクール所長の安西英明さんが、図版は東京で理髪店を経営しながら鳥を描いているイラストレーターの谷口高司さんが担当した。どちらもカラー64ページで、価格は1冊税込み550円。問い合わせは日本野鳥の会企画事業センターへ。

野鳥、受難の季節 幼鳥狙いの密猟増える 飼育には許可必要/日本野鳥の会(1999年5月14日、読売新聞)

自然の中で楽しもう

狙われるメジロの幼鳥
ペットショップにも出回る国産の野鳥

1999年5月9日~15日はバードウイーク。しかし、野鳥にとって、繁殖し巣立ちをするこれからの時期は受難の季節でもある。メジロの幼鳥などをねらった密猟が増えるからだ。ペットショップなどで売られている小鳥の中に、販売などが禁止されている国産の野鳥が含まれているとの報告もあり、密猟などの取り締まりは次第に厳しくなっている。日本野鳥の会(東京・渋谷)は国産野鳥を許可なく飼育するのは違法であることを知ってと訴えている。

木の枝の間に水平に渡した竹はメジロを捕るワナ
録音した声やおとりの鳥の鳴き声でおびき寄せる

この時期低山の林などで、木の枝の間に水平に渡した竹を見かけたら、それはメジロを捕るワナだ。テープレコーダーに録音した声やおとりの鳥の鳴き声でおびき寄せ、トリモチの付いた竹に止まらせて捕まえる。

マニアの間で人気があるメジロの幼鳥

野鳥の密猟問題に詳しい日本野鳥の会の前理事で動物作家の遠藤公男さんは「巣立ったばかりのメジロの幼鳥は人になれやすく、冬にはよく鳴くようになる。このため、春メジロとか新子(しんこ)と呼ばれてマニアの間で人気があり、密猟が増える」と説明する。

1羽100万円程度で取引されるメジロ
オジロやヒガラ、オオルリなど鳴き声の美しい野鳥もねらわれる

遠藤さんによると、繁殖の季節は野鳥たちがよくさえずって目立つため、ホオジロやヒガラ、オオルリなど鳴き声の美しい野鳥がねらわれ、売買されている。特にメジロは人気があり、一度に数10から100羽近くが捕獲され、1羽2千円程度で業者に卸される。声が美しくマニアの間で有名なメジロは1羽100万円程度で取引されているという。

止まらない国産野鳥の売買
7割の店が国産メジロを取り扱っていたとの調査結果

野鳥保護団体「全国野鳥密猟対策連絡会」(京都市)が1997年に大阪、兵庫など5府県の小鳥店約100店を調査したところ、7割の店が国産メジロを取り扱っていた。国産野鳥の売買は、鳥獣保護法で禁止されている。

ほとんどの都道府県では1世帯に1羽の飼育しか認めていない

また、国産の野鳥で、都道府県知事の許可を得て飼育ができるのはウソ、マヒワ、ホオジロ、メジロの4種類だけ。「ほとんどの都道府県では1世帯に1羽の飼育しか認めていない。ところが、そのことを知らない人が多い」と日本野鳥の会保護・調査センターの小南幸弘さんは強調する。

熊本県と熊本県警、密猟の疑いのあるメジロを任意提出させる
全国で初めて会場への立ち入り検査

野鳥の密猟、飼育に対する取り締まりは従来、「手ぬるい」と言われていたが、自然保護への関心が高まるにつれ、次第に厳しくなっている。メジロの美声を競う鳴き合わせ会が全国各地で催されている中で、熊本県と熊本県警は1999年3月、熊本県内であった鳴き合わせ会に密猟された国産メジロが出品されている疑いがあるとして、全国で初めて会場への立ち入り検査を行い、密猟の疑いのあるメジロを任意提出させた。

鳥獣保護法違反で裁判となるケースも
静岡、鹿児島地裁などで、執行猶予付き有罪判決

密猟などで摘発されても、これまで罰金で済む略式命令処分がほとんどだったが、この1年ほど鳥獣保護法違反で裁判となるケースが目立ってきた。静岡、鹿児島地裁などで、執行猶予付き有罪判決が下されている。

密猟だけでなく、年間10万羽もの野鳥が外国から輸入
「野鳥は自然の中で楽しんでほしい」と日本野鳥の会

「密猟が横行していることばかりでなく、年間10万羽もの野鳥が外国から輸入されていることもあまり知られていない。日本は野鳥にとってはつらい環境だ。野鳥は自然の中で楽しんでほしい」と遠藤さんと小南さんは口をそろえている。