清原達郎(タワー投資顧問)は、20世紀末から21世紀初頭に日本株の相場で大活躍した伝説の投資家。2005年の長者番付(高額納税者)1位。独立系投資顧問会社のサラリーマン。リーマンショック(2008年)までの株式相場の上昇局面で巨額の利益を稼ぐ。「本業の力」見抜く眼力がピカ一とされ、「仕事の鬼」と言われた。東京・兜町では「清原氏が買えば株上がる」というレジェンドが広まった。

清原達郎氏(タワー投資顧問)の伝説

2005年5月19日、東京新聞

2005年の長者番付(高額納税者)1位

スーパーサラリーマン

2005年の長者番付(高額納税者)第1位は、投資顧問会社のサラリーマンだった。納税額は約37億円。サラリーマンが初の番付トップとなり、推定年収も約100億円とけた違い。仕事は預かった資金を株式で運用して利益を出すファンドマネジャーだ。驚異的な運用実績を上げる手腕には、独特の「哲学」があるようだ。サラリーマン諸氏羨望(せんぼう)の的、「スーパーサラリーマン」の稼ぎ方とは-。

「投資先を訪れて直接社長に取材し、従来の投資常識にとらわれず、真の企業価値を見極める力がすごい。業界では『清原が買えば株価が上がる』といわれ、成功報酬もうなぎ上りだ」。番付トップになったタワー投資顧問運用部長の清原達郎氏を知る帝国データバンク情報部の中森貴和課長は、清原氏の実力をこう称賛する。

経歴・プロフィール

東大、野村證券、ゴールドマン

経歴も華やかだ。清原達郎氏は1981年、東京大学卒。野村証券に入社後、スタンフォード大学でMBA取得。アメリカ公認証券アナリストの資格も持つ。野村ニューヨークなどの勤務を経て1993年退社。ゴールドマン・サックス東京、モルガンスタンレー、スパークス投資顧問などを経て、1998年4月にタワー投資顧問の運用部長に転職した。

精鋭がそろうタワー投資顧問でも、清原氏は特別な人物だったようだ。数年前にタワー投資顧問を取材した金融ジャーナリストは「タワー投資顧問幹部が『すごい人が入った。個別銘柄の発掘はピカ一』と評価していたのが清原氏だった」と話す。

運用部長

タワー投資顧問の中心的なファンド「タワーK1Jファンド」は、企業年金運用が7割を占め、運用開始の1999年4月からの6年間で、元本が6・4倍に膨らんだ。その成功報酬が清原氏の巨額な収入を生んだようだ。

アーネストワン、卑弥呼、細田工務店

清原氏の武器は「対象会社の業種や借金額にとらわれることなく、本当の企業価値『本業で稼ぐ力』を見極める分析力」(中森氏)だ。「2004年大幅に値を上げた不動産ファンド銘柄は、清原氏が真っ先に目を付けたものだ」。これまで不動産関連のアーネストワンや婦人靴製造販売の卑弥呼、一戸建て住宅販売の細田工務店など一般には聞き慣れない企業に投資してきた。

「聞き上手」

気になる清原氏の人柄を、あるマーケット関係者は「メガネをかけており、180センチぐらいの長身。無口で声が小さく、聞き上手といった感じ。無精ひげをはやし、服装に無頓着な感じで、履き古した靴を履いていた。車も持っておらず、最近まで賃貸住宅に住んでいた。金もうけより、自分の投資判断が正しかったのかどうかにだけ興味があったようだ」と話す。

運とツキ

前出の金融ジャーナリストも「この業界は、1年ごとに結果を出さないとクビになる厳しい世界。しかも、いわれなきねたみを買いかねない世界。まして清原氏は仕事の鬼ときく。バブルに派手な生活をして運とツキを落とし、体も精神もボロボロになった先輩を見ているのかもしれない。この仕事、運を味方にすることも重要だ」と推察する。

タワー投資顧問とは

清原氏が所属するタワー投資顧問も個性的な会社といっていい。社名は、東京タワー(東京都港区)の足元に本拠を構えることに由来する。

香港のセブン・ファイナンスが株主

日本証券投資顧問業協会に提出されたタワー投資顧問の資料などによれば、業務開始は1990年。タワー投資顧問の株式の78%を所有する香港系証券会社、セブン・ファイナンス・リミテッド社が1998年に買収した。セブン・ファイナンスは野村証券出身者7人によってつくられた「日系」外資だといわれ、その1人がタワー投資顧問社長を務める。

業績

タワー投資顧問は2002年には営業収益7億1600万円、経常損益ベースで1900万円の赤字だった。しかし、2005年は営業収益150億円となった。扱っている顧客からの資産は2004年4月現在、2650億円になった。

マクロ分析でなく足で稼ぐ

運用哲学に掲げるのは「われわれの知らないもの、理解できないものには手を出さない」。大局的なマクロ経済の指標に基づかず、投資判断は「3000社を超える企業訪問」を行い、足で稼いだ情報で決める。

バフェット氏の「バリュー投資」

比較的地味で話題にならず、企業の実態と比べて安値で放置されている小型株を買い、高値となったところで売却して利益を確定するという。この手法は現在、世界ナンバーワンの投資家といわれる米投資会社バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット最高経営責任者(CEO)が唱える「バリュー投資」に似る。

タワー銘柄

実は既に、証券業界ではタワー投資顧問の快進撃ぶりはつとに有名で、同社に買われた企業の株は「タワー銘柄」として注目されていた。

最近では大証ヘラクレス市場に上場する不動産賃貸関連会社の株を2004年から徐々に約3割まで買い進め、ストップ高まで値が上がったところで売却。ストップ安となったところで翌日、その半分を買い戻した件は、「極めて鮮やかな手口」(証券関係者)と話題になった。

独立系は今後も増える

株式投資を専門にする東山経済研究所の久津屋宏平社長は「大企業は子会社の投資顧問会社を持っていても、一定額を独立系の会社に任せる例が増えている。リスクを分散しつつ、低金利時代に有利な運用をしようという狙いだ。タワー投資顧問のような独立系投資顧問会社は今後も増えてくる」と解説する。

会社訪問後に暴騰

ただあまりにも鮮やかなやり方に、ある準大手証券関係者は「清原氏の会社訪問後、株価が暴騰したという企業の記事がどこかに載っていたが、その企業の株は現在、元に戻ってしまった。バリュー投資といえるのだろうか」と疑問視する。また「2~3割も買い進めた後、売り抜けるのは非常に困難で、タワーがどう売り抜けているのか不思議だ」(別の証券会社アナリスト)との声もある。

前出の不動産賃貸会社の株主名簿には、清原氏の野村証券時代の上司で、ライブドアとフジテレビの争いで有名になったソフトバンク・インベストメント(SBI)の北尾吉孝CEOの名もあった。

SBI北尾吉孝氏の一番弟子

「清原氏は北尾氏の一番弟子で一心同体。会合に同席する姿がたびたび見られた」と株式評論家の杉村富生氏は明かし「投資先をみると、野村証券が幹事社の会社ばかり。野村時代の人脈を生かし、社長と知り合いの会社にだけ投資している」と手法を分析する。

ハイリスク・ハイリターン
小型株が中心

一方、タワー投資顧問はもともとハイリスク・ハイリターンの宿命を帯びる投資顧問業。落とし穴はないのか。楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏は「小型株はいったん値崩れると一気に株価が下がる傾向にあり、タワーのように小型株を中心に運用するスタイルは不安がある」と懸念する。

社長にならず運用に専念

とはいえ、双日総合研究所の吉崎達彦氏は「清原氏は社長となって対外的にいろいろ責任を負ったりせず運用に専念したいから運用部長にとどまっているのだと思う。その意味で番付1位なって騒がれるのは計算外だったのでは」としながらも「日本のサラリーマンの歴史に新たな1ページを加えた」と評価する。

ソロモンの明神茂氏が元祖

今後“第2の清原”は登場するのか。前出の金融ジャーナリストは「8年前、米大手投資顧問会社ソロモン・ブラザーズに在籍し、約39億円の年収を得た明神茂氏がスーパーサラリーマンの元祖だ。清原氏以外にも優秀な人材は多い。今後も巨額年収を稼ぐサラリーマンは出てくる」と話す。